ラグビーワールドカップ1987 NZ・Australia大会3位決定戦

1987年6月18日木曜日 NZ Rotorua InternationalStadium 収容客数26,000人(テレビ観戦)

22 - 21 Wales勝利

記念すべきラグビーW杯第1回大会

ラグビーワールドカップは1987年に始まった。当時「ラグビー」という競技は、トップカテゴリですら「名誉あるアマチュアスポーツ」との位置付けだった。欧州では100年以上の歴史を持つ「Five Nations」(現在はItalyが加わりSix Nations)という権威ある大会があったこともあり、当初、北半球勢はW杯開催に乗り気ではなかったらしい。南半球での開催だったことも影響してか、日本はもとより世界的にもまだまだ注目度の低いイベントだった。

そのような事情もあって、当時の映像を観る限りとても長閑な雰囲気が伝わってくる。大会には、アパルトヘイト政策の為参加が認められなかった南アフリカ代表除く、ティア1の7ヶ国と招待国9ヶ国の計16ヶ国が参加。日本も招待されて参加している。1987年5月22日~6月20日まで30日間開催され、総観客数は604,560人、1試合平均18,691人となっている。(参考までに、2019年日本大会は20チーム参加で2019年9月20日~11月2日の44日間開催され総観客1,704,443人、1試合平均37,877人だった。) チケットの値段も、現在とは比べ物にならない位かなり安価だったらしい。

大会収支は黒字だったらしい。大会の冠スポンサーは日本の「KDD(国際通信電話株式会社 現在はKDDI)」。大会の冠スポンサーが存在したのはこの大会のみである。多分今後も無いだろう。スタジアムの広告看板にも日本企業の名前が目立つ。今では想像もできないが、ジャパンマネーが世界を席巻していた時代。そんな時代背景も感じられるスタジアムを観ると、柄にもなくノスタルジックな感情が湧いてくる。

厳密には「プロ」とみなされるような選手もいたようだが、基本的にはアマチュアスポーツだった時代。選手達は消防士や警察官、教師など他に本職を持ちながら国代表として大会に参加していた。当然、各国にもプロ・リーグなどは存在しないわけで、そのせいか現在なら各国代表に数人は必ず存在するフィジカル自慢のアイランダーフィジーサモアトンガなどミクロネシア諸国のラグビー強豪国にルーツを持つ選手)はほぼ皆無。現在の各代表に見られる多様性はない。選手達の体格も現在とは全く別物。特に上半身の逞しさは現在の選手の方が遙かに上回る。そのかわりに、スピードと激しさがない分優雅な雰囲気が漂い現在のラグビーとはひと味違う魅力がある。

ルールの違いも大きい。ペナルティ・キックでタッチラインを割った後、再開のラインアウトは相手ボールとなる。ラインアウトもリフティングは反則だったので、現在のラグビーなら即失点に繋がるペナルティが失点しにくいルールだった。戦術的選手交代もなく、選手交代は怪我で選手が退場した時のみ認められた。イエローカード提示によるシンビン(10分間の一時退場)もなく、退場処分になればその試合に復帰することはない。トライも4点。因みにトライの点数が 4点→5点 に変わったのは、1992年4月から。そのようなルールの違い、選手の体格の違いなどを現在と比較してみるのも、昔の試合を観賞する楽しみの1つだ。

傷心のWallabies

優勝候補のWallabiesラグビーオーストラリア代表の愛称)は準決勝でFranceとの死闘の末逆転負け。共同開催国として決勝でNZ代表ALL BLACKSとの南半球対決を目論んでいただけに、失意の中3位決定戦に臨んだ。メンバーを見ると、大型SHニック・ファー・ジョーンズ、冷静沈着な司令塔SOマイケル・ライナー、ラグビー史上屈指のWTBデイヴィッド・キャンピージなど、歴史的な名手がズラリと並ぶ。

ウェールズラグビー協会エンブレム

無心のWales

準決勝でALL BLACKSに 49-6 と大敗したものの、準々決勝で宿敵Englandに 16-3 と完勝して意気上がるWales。伝説の天才SOジョナサン・デービスを中心にキックの名手FBポール・ソーバーンらが無心で強豪Wallabiesに挑む。

開始早々の退場劇

3位決定戦を裁くのはEnglandのレフリー、フレッド・ハワード。当時は厳格なレフリングで有名だったらしい。WalesのSOジョナサン・デービスのキックオフで始まった試合は、開始5分でWallabiesのFLデイヴィッド・コーディーがラフプレーの為退場となってしまう。このペナルティによりWalesのFBポール・ソーバーンにPGを決められ3点を先制されたWallabies。残り75分を14人で戦う事を強いられたWallabiesの劣勢は免れず、勝負は決まったかに思われた。

しかしながら1人少ない7人で組むスクラムでもWallabiesの健闘が目立つ。Walesがスローフォワードでトライを逃すと、前半13分にはWallabiesのSOマイケル・ライナーがPGを決めて同点に追いつく。前半27分には敵陣でのラインアウトを起点にWalesのFLガレス・ロバーツがトライを決めるが、前半33分にはWallabiesも敵陣でのラインアウトからBKに展開。最後はCTBマシュー・バークがトライを挙げ、トライ後のコンバージョンキックも決まる。この時点で 9 – 7 と逆転したWallabiesは、続く前半39分にもWalesのBKのミスを突いてWTBピーター・グリッグがトライ。SOマイケル・ライナーのコンバージョンキックも決まり、15 – 7 と差を広げる。Walesも前半終了間際のラストプレーで相手ボールを奪い、FW・BK一体となった見事な繋ぎを魅せて最後はNo.8ポール・モーリアティがトライを奪う。FBポール・ソーバーンのコンバージョンキックが決まり、前半のスコアは 15 – 13。Wallabies2点リードで折り返す。

後半3分にはWalesのFBポール・ソーバーンがPGを決めて 15 – 16 と逆転するが、後半6分、今度はWallabiesのSOマイケル・ライナーがPGを決めて再度逆転。後半14分にはWallabiesのSOマイケル・ライナーが、意表を突くDGを決めて 21 – 16 とリードを広げる。リードされたWalesだったが、ロスタイムに入った後半44分、WTBのA・ハドレーがFBポール・ソーバーンのラストパスを受けゴール左端にトライ。難しい角度のコンバージョンキック。決めれば逆転、外せば逆転ならずのプレッシャーの中、名手ポール・ソーバーンが逆転のキックを決める。残り時間は僅か。微かな逆転への望みを賭けて、SOマイケル・ライナーのキックオフのボールを獲得し必死に攻めるWallabiesだったが、惜しくもノックオンでノーサイド。Wallabiesは無念の敗戦となった。

ワールドカップ史上、記念すべき最初の3位決定戦だったが、少なくとも第9回大会迄では史上最高の3位決定戦となっている。14人ながら劣勢を感じさせなかったWallabiesの戦いぶりは見事だった。勿論、3位となったWalesも素晴らしかった。試合を裁いたフレッド・ハワードの開始5分での退場処分の判断は、結果的に荒れる気配の試合を落ち着かせた。試合終了間際でのWalesの逆転後、アディショナルタイムをワンプレー分残し、Wallabiesの逆転の望みを繋ぎ、観客を最後までワクワクさせた。ワールドカップ史上に残る素晴らしいレフリングだった。

ナショナル・アンセムの演奏時に両チームがそれぞれ円陣を組んで歌っていたり、ハーフタイムも5分しかなかったり、試合後に観客がグラウンドに雪崩れ込んできたり、今では考えられない光景も見所の1つで楽しめる。使用するラグビーボールも現在のものより一回り大きく、キックしても現在ほどの飛距離は出ない。先述したルールや選手の体格同様現在との比較も面白い。歴史的な試合は色々な意味で必見の試合と言える。

2023年4月1日土曜日からは J SPORTSラグビーワールドカップ100選!が放送・配信予定。

2023年9月9日土曜日からは J SPORTS で「ラグビーワールドカップ2023フランス大会」が放送・配信予定。

2023年7月8日土曜日からは WOWOW南半球4カ国対抗戦「ザ・ラグビーチャンピオンシップが6試合放映予定。

投稿者

ラグビー好きの食いしん坊

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