2023年9月9日土曜日
ラグビーワールドカップ2023フランス大会予選プールA組
Saint-Etienne Stade Geoffroy-Guichard 収容客数41,965人(テレビ観戦)
52 - 8 Italy勝利
初の8強入りへ
イタリア代表、愛称「アズーリ(Azzurri)」。伝統の青いユニフォームをまとい、エレガントで洗練されたプレーが特徴。クリエイティブな攻撃とスマートなディフェンスでボールを流れるように動かし、正確なキックとパスワークで相手を翻弄する。アズーリはヨーロッパのスタイルと南半球のテクニックを巧みに融合させている。
ワールドカップ(W杯)開幕前のワールドラグビーランキングは13位(9/4付)にランクイン。過去のW杯本大会では、準々決勝進出の経験はないものの、強豪国との戦いで確実に成長を遂げてきた。
SOでFBもこなすトンマーゾ・アランは3度目のW杯出場となるチームで最も経験豊富な選手。2022年世界最優秀選手に選ばれたFBアンジェ・カプオッツォも健在。他にもバックスのルカ・モリジ、フォワード陣にシモネ・フェラーリ、ダニロ・フィスケッティら7人の前回大会経験者が選出されている。キャプテンを任されたのは、FLのミケーレ・ラマロ。25歳の若さながらリーダーシップと経験豊かなプレーでチームを鼓舞する。イタリア代表は美しいプレースタイルと情熱で世界に挑戦する。
初勝利を目指して
ナミビア代表、愛称は長期の繁栄と不屈の精神を意味する植物の名「ウェルウィッチアス(Welwitschias)」。パワフルで勇敢なプレースタイルで知られ、強力なランニングとタックルを駆使して相手にプレッシャーを掛け、スクラムやラックなどの接触プレーでも安定したパフォーマンスを発揮する。
ワールドカップ(W杯)開幕前のワールドラグビーランキングは21位(9/4付)。アフリカ大陸では南アフリカに次いで2位の実力で、1999年大会から7大会連続のW杯出場となるが、いまだ未勝利。2003年大会ではオーストラリアに、0-142と大敗。現在も最大点差記録となっている。
今大会、アリスター・クッツェー監督はまず31名の最終スコッドを発表し、その中には元ワラビーズのFLリチャード・ハードウィックが選出。メンバー中には15名のW杯経験者が含まれ、キャプテンは3回目のW杯となる経験豊富なセンターのヨハン・デイゼルが務める。チーム最多の4度目の出場となるPJ・ファンリル、テューイ・ウアニビやJC・グレーリングらがリーダーシップを発揮して、まずはW杯での1勝を手にしたい。ナミビア代表はパワフルなプレースタイルと団結力で、再び世界の強豪に挑む。
Italyが実力発揮
大会前時点のワールドラグビーの世界ランキングを比較すると、イタリアの13位に対しナミビアは21位。いずれも過去のワールドカップで決勝トーナメントに進出したことはないが、1999年大会での初出場以来ここまで未勝利のナミビア(前回大会カナダ戦の中止を除き22連敗中)に対し、シックスネーションズを戦うイタリアは通算13勝18敗(中止1)と実績で大きく上回る。前回大会の直接対決でも47-22と完勝しているイタリアに、ナミビアがいかに挑むか――という構図だ。
イタリアは2019年ワールドカップ以降の2シーズンで13試合勝ち星なしと低迷したが、2021年春に就任した元ニュージーランド代表FBのキアラン・クローリーヘッドコーチ(HC)のもとで近年躍進を遂げた。2022年のシックスネーションズでウエールズに22-21と勝利し同大会の連敗を36で止めると、同年秋にはオーストラリアから28-27で初白星を手にする。今年のシックスネーションズでもフランスに24-29と善戦しており、8月26日のテストマッチでは日本代表に42-21と快勝。悲願の決勝トーナメント進出に向け、上々の仕上がりを見せている。
最終スコアは52-8。しかし敗れたナミビアもなすすべもなく屈したわけではなかった。前半はシンビンによる一時退場者を出しながら8-17で折り返し、時計が80分を回った後も死力を尽くして果敢にトライを狙いにいった。あらゆる局面のあらゆる選択に、この舞台で戦う覚悟と誇りがにじむ。そんなワールドカップの醍醐味を感じさせる一戦だった。
開始4分にナミビア、8分にイタリアがPGを決め合う立ち上がりの中、最初のトライが生まれたのは11分だ。FBトンマーゾ・アランの50-22キックでイタリアが相手陣22メートル線内でマイボールラインアウトを得ると、力強くモールを押し込む。一度目は取り切れなかったがコラプシングによりナミビアHOトルステン・ファンヤースフェルトをシンビンに追い込み、二度目は難なく押し切ってNO8ロレンツォ・カンノーネがゴールラインを越えた。
15分には、HO不在でナミビアのラインアウトが乱れたところを逃さずターンオーバー。すぐBKに振ってSOパオロ・ガルビシが防御のギャップを鋭く走り抜ける。FBアランがコンバージョンを決め、イタリアのリードは17-3に広がった。
ひとり少ない状況で立て続けの失トライ。流れが一気に傾きそうな時間帯だったが、ナミビアもここから意地を見せる。鋭い出足のディフェンスで圧力をかけてイタリアのラインアタックを寸断すると、21分にスクラム起点の連続攻撃でオーバーラップを作り出し、WTBゲースウィン・ムートンが右コーナーにフィニッシュ。一人ひとりの気迫が立ち上るトライでムードを変える。
その後は観客席の後押しも受けてナミビアが勢いに乗り、たびたび見せ場を作った。渾身のタックルでたびたびイタリアのエラーを誘い、ボールを奪えば迷いなく突破を図る。33分以降は相手陣22メートル線内に攻め込み、テンポのいい連続攻撃でゴールラインに迫った。
しかし、シックスネーションズで数々のハイプレッシャーゲームを経験しているイタリアはたくましかった。フラストレーションから強引な攻めでたびたび好機を逸するも、ディフェンスでは厳しいヒットとスペースを埋める高い意識を維持し、決定的な場面を作らせない。追加点は許さず、17-8で前半を折り返した。
互いにハーフタイムでどう戦い方を整理してくるかが注目された後半。入りは決してよくなかったイタリアだが、相手のキックミスにより敵陣でのマイボールスクラムを得ると、ナミビアの反則を誘い一気に敵陣ゴール前まで攻め込む。ラインアウトからFWのパワープレーで近場を崩し、LOディノ・ラムが左中間に押さえた。
これで14点差になり余裕が生まれたイタリアは、以後のナミビアの反撃にもあわてることなく体を当てて前進を阻み、着実に勝利へ歩みを進めていく。そしてゲームを決定づけるトライが生まれたのは55分だった。ゴールラインを背負うディフェンス局面を堂々と守り切って危機を抜け出すと、自陣10メートル付近のラインアウトから左オープンへ展開。大外をWTBアンジュ・カプオッソが駆け上がり、WTBモンティ・イオアネ-ふたたびカプオッソとつながって左コーナーを陥れる。今大会注目選手のひとりであるカプオッソのファンも待ち望んだ快走で、スコアは31-8となった。
30度を超える猛暑もあってラスト20分は消耗戦となり、しばらくは膠着した時間が続いたが、イタリアは攻撃の手を緩めない。70分以降はナミビアの足が完全に止まり、74分にHOハメ・ファイヴァ、78分にはFLマヌエル・ズリアーニがパワフルなボールキャリーでゴールラインを割る。
この試合のベストシーンが訪れたのは80分過ぎだ。勝負はすでに決していたが、お互いのプライドにスタンドの期待も重なってどちらもプレーを切ることなく攻め合い、目まぐるしく攻防が入れ替わる。最後は中盤のペナルティからイタリアWTBカプオッソがタップキックで仕掛け、左ライン際を途中出場のWTBパオロ・オドグブが爆走。50点の大台を超えて52-8までスコアを伸ばし、フルタイムを迎えた。
注文通り大量得点で勝利し、ボーナスポイントつきの勝利を手にしたイタリア。キャプテンのFLミケーレ・ラマロが「FWでもBKでもトライを取れたのはよかった」と振り返ったように、多彩なパターンで7本のトライを奪ったことは、平均年齢26.7歳の若いチームにとって大きな自信になるだろう。次戦は12日後の対ウルグアイ戦(日本時間00時45分キックオフ@ニース)。悲願の決勝トーナメント進出に向け、好スタートを切った初戦の勢いをどう維持していくかが注目される。
一方ナミビアの次戦は9月16日の対ニュージーランド(04時キックオフ@トゥールーズ)。タフなチャレンジになることが予想されるが、愛称“ヴェルヴィッチャーズ”は2019年の日本大会でもオールブラックスとプールマッチで戦っており、結果的には9-71と大差になったものの、前半35分までは9-10と奮闘してスタジアムを沸かせた。いまだアマチュア選手も多く含むスコッドながら常に全力を出し尽くすナミビアの誇り高き戦いぶりは、見る者の心をゆさぶる。前回大会以上の健闘を期待したい。