2023年10月7日土曜日
ラグビーワールドカップ2023フランス大会予選プールB組
Saint-Denis Stade de France 収容客数81,338人(テレビ観戦)
36 - 14 Ireland勝利
悲願の初優勝へ
9月8日の開幕から5週目に入ったラグビーワールドカップ2023フランス大会は、いよいよプールマッチの最終節を迎える。決勝トーナメント進出がかかる大一番も多く残っており、フランス全土が熱気と興奮に包まれる週末になるだろう。その中でもひと際注目されるのが、プールBのアイルランドとスコットランドの激突だ(日本時間10月8日04時キックオフ@サンドニ)。
世界ランキング1位のアイルランドに、前回王者で同3位の南アフリカ、さらに同5位のスコットランドと強豪がそろったプールBは、今大会随一の“死の組”だ。現在のポイントテーブルではすでに4試合を終えている南アフリカが勝ち点15で首位に立っているが、その南アフリカに13-8で勝利したアイルランドは3戦全勝の勝ち点14で、この最終戦に勝てばプール1位通過が決まる。一方のスコットランドは南アフリカに3-18で敗れており、2勝1敗の勝ち点10で上位2国を追いかける状況。プレーオフに進出するためには、アイルランドに勝ち点4差以上をつけて勝つことが条件となる。
ここまでの戦いを振り返って際立つのは、アイルランドの充実ぶりだ。ルーマニアに82-8、トンガに59-16と大勝で着実に白星を重ね、第3戦では世界最高のフィジカル大国、南アフリカと圧巻の真っ向勝負を展開。序盤こそ相手の厳しいプレッシャーに押され気味だったものの、浮き足立つことなく自分たちのスタイルを貫いて徐々に流れを引き寄せ、後半に2本のPGで逆転して堂々と勝ち切った。プレーのスピードと強度、スキルいずれも最高峰の激戦を制し、あらためて頂点を視野に収めるチームであることを証明した。
発表された登録メンバーをチェックすると、アイルランドは2週前の南アフリカ戦からスターター2人を入れ替えた。新たに先発に名を連ねたのはHOダン・シーハンとLOイアン・ヘンダーソンで、前節先発のHOローナン・ケラハーとLOジェームズ・ライアンはリザーブに回る。ベンチメンバーまで含め盤石の布陣といっていい構成で、FLピーター・オマーニーの通算100キャップ目ということもあり、節目を勝利で祝うべく満点の気迫で臨んでくるはずだ。
ベスト8に生き残れるか
対するスコットランドは9月10日の初戦で南アフリカに屈し黒星スタートとなったものの、トンガとの第2戦では見事にバウンスバックを遂げ、5人の元ニュージーランド代表を擁する難敵に45-17で快勝。続くルーマニア戦もそれまで出番のなかったメンバーを主体とする布陣ながら12トライを奪う猛攻で84-0と大勝し、トップクラスのチーム力を示した。対ルーマニア戦のスコアを比較すれば得点、得失点差ともアイルランドと南アフリカを上回っており、十分その2国に対抗しうる戦力を備えていると見ていいだろう。
スコットランドの前節ルーマニア戦からの先発変更は9人。トンガ戦でヘッドコンタクトを受け退いたキャプテンのFLジェイミー・リッチーが復帰したほか、SOフィン・ラッセルやWTBドゥハン・ファンデルメルヴァら主軸がずらりと並び、こちらもベストといえるラインアップになった。ちなみに15番を背負う万能BKのブレア・キングホーンにとっては、これが50キャップ目のゲームだ。
アイルランドが全員の献身的なハードワークをベースに常に複数の選択肢を作りながらゲインラインにたたみかける攻撃を得意とする一方、スコットランドは司令塔のラッセルのひらめきと多彩な仕掛けから決定力あるアウトサイドのランナーを自在に走らせるアタックが持ち味。それぞれの鍵を握るCTB陣、バンディー・アキ&ギャリー・リングローズとシオネ・トゥイプロトゥ&ヒュー・ジョーンズのミッドフィールドのバトルは、この試合の大きな見どころのひとつだ。またともにセットプレー、特にラインアウト起点のアタックを得意とするチームだけに、その獲得率は勝敗を左右する要素になるだろう。
シックスネーションズでも長年しのぎを削ってきた両国の通算対戦成績は、アイルランド69勝、スコットランド67勝でドローが5つとほぼ互角。ただ直近ではアイルランドが8連勝と優勢を維持しており、ランキングの通りスコットランドが挑む構図といえるだろう。なおワールドカップでは過去に2度対戦しており、1991年のイングランド大会ではスコットランドが24-15と勝利したが、2019年日本大会ではアイルランドが27-3で快勝を収めている(いずれもプールマッチ)。
世界ランキング1位と5位が、生き残りをかけて激突する決戦。どう転んでもしびれる戦いになるのはまちがいない。必見だ。
充実のIreland勝利
逆転での決勝トーナメント進出に燃えるスコットランドの気迫みなぎるチャレンジにも、アイルランドの盤石の牙城は揺るがなかった。ゲインラインバトルを制し、組織力と運動量で上回って、過去何度も激闘を繰り広げてきた誇り高き好敵手を力でねじ伏せた。圧巻の36-14。世界ランキング1位のアイルランドが、プレッシャーのかかる大一番でスコットランドに快勝し、文句なしの4連勝でプールB1位通過を果たした。
試合はいきなり動いた。開始50秒過ぎ、中盤で攻撃を継続するアイルランドは、右中間ラックから左へ振ってCTBギャリー・リングローズがきれいにラインブレイク。外をサポートしたWTBマック・ハンセン→WTBジェームズ・ロウとパスがつながり、早々に先制トライを挙げる。
スコットランドも直後のターンで敵陣に攻め込み、22メートル線内でマイボールラインアウトのチャンスをつかむが、アイルランドは自慢の堅守で対抗。速いテンポのアタックにもあわてることなく防御ラインを保ち、最後は相手が孤立したところでNO8ケーラン・ドリスがターンオーバーを勝ち取る。11分から13分にかけてのシーンもぶ厚い壁のような防御で相手の前進をことごとく阻み、危なげなく守り切った。
その後もアイルランドが気迫の攻守で優位に立つ時間は続き、18分にはスコットランドのキャプテン、FLジェイミー・リッチーがタックルの際に右肩を痛めピッチを退く痛恨のアクシデント。そして26分、アイルランドは得意のラインアウト起点のアタックから狙い通りに大外でオーバーラップを作り、FBヒューゴ・キーナンが左コーナーに飛び込む。SOジョニー・セクストンが難しい角度のゴールも決め、リードを12-0に広げた。
アイルランドは32分にも相手陣22メートル線内に攻め入り、ハードワーカーぞろいのFWが近場勝負でジリジリと前進。最後はLOイアン・ヘンダーソンがタックルをかいくぐって左中間に押さえる。さらに前半終了間際にはゴール前ペナルティでPGではなくタップキックからの攻撃を選択し、相手ディフェンスを崩し切ってまたもキーナンが右中間にフィニッシュ。この時点で4トライのボーナスポイントを手にし、26-0で前半を折り返した。
後半。スコットランドは入替でFBに入ったオリー・スミスが42分に不行跡でイエローカードを受け、みずから首を絞めてしまう。アイルランドはこのチャンスにすかさずたたみかけ、続くラインアウト起点の攻撃から左ライン際でパスを受けたHOダン・シーハンがインゴールへ。これでゲームの趨勢は決定的になった。
以後、アイルランドはフレッシュなリザーブメンバーを次々と投入しながら接点での推進力を維持し、試合を優勢に展開。攻守とも圧力を緩めることなく前に出続け、58分にはSOジャック・クラウリーのピンポイントのキックパスからCTBリングローズが悠々とゴールラインを越える。
スコットランドがようやく反撃に転じたのは、勝負が決した後の64分だ。キックレシーブ起点の攻撃でいい形を作り出し、CTBシオネ・トゥイプロトゥのブレイクから右ライン際でパスを受けたHOユアン・アシュマンが右中間を陥れる。続く65分にもキックオフレシーブからCTBヒュー・ジョーンズが左ライン際を突破し、サポートしたSHアリ・プライスがポスト下へ駆け抜けて7点を返した。
フルスロットルで飛ばしてきた影響からか足が止まり始めたアイルランドだったが、70分以降はキックを軸にした堅実なゲームメイクへとシフトし、じわじわと時計を進める。終了直前、ゴール前で得たペナルティからFW勝負を挑み、PRフィンレー・ビーラムがねじ込んだプレーは直前にノックオンがあったという判定でトライは認められなかったが、危なげなく試合をコントロールしきって36-14でフルタイムを迎えた。
この試合に敗れればプールマッチ敗退の可能性もあったアイルランドだが、13-8で勝利した南アフリカ戦に続いて凄みに満ちたパフォーマンスを披露し、堂々と重圧をはね除けてみせた。これで4戦全勝の勝ち点19とし、死の組と呼ばれたプールBを文句なしの1位で通過。スコアが開いた45分以降一気にメンバーを入れ替えるなどまだ余力も感じさせる内容で、クライマックスの決勝トーナメントに向け、チーム状態はピークを迎えつつあることをうかがわせる。
10月14日の準々決勝(日本時間15日04時キックオフ@サンドニ)で対峙するのは、プールA2位のニュージーランド。2019年の日本大会でも準々決勝で顔を合わせ、14-46で完敗を喫している因縁の相手だ。イタリアを96-17と圧倒するなどここにきて調子を上げてきている印象だが、南アフリカ、スコットランドとの試練を乗り越えた今のアイルランドは、まちがいなく勝利に手の届く実力を備えたチームといえる。過去何度も挑みながら跳ね返されてきたクウォーターファイナルの壁をついに突破するのか、世界中の視線が注がれる大一番になるだろう。
一方、2大会連続のプールマッチ敗退となったスコットランド。この試合にかける強い意気込みはプレーの随所から伝わってきたが、序盤のフィジカルバトルで後手に回り、追いかける展開を強いられる中でキャプテンが早い時間帯に負傷退場したのは痛かった。世界ランキング5位の実力者がこの段階で姿を消すのは抽選の不運を嘆くほかないが、終盤に2トライを返し意地は示した。これほどのチームが、ノックアウトステージの舞台に立つことなく大会を後にする――。ワールドカップの厳しさを痛感する試合だった。