2023年10月14日土曜日
ラグビーワールドカップ2023フランス大会準々決勝
Marseille Stade de Marseille 収容客数67,394人(テレビ観戦)
29 - 17 Argentina勝利
9月8日の開幕から1か月あまり。フランスで開催されているラグビーワールドカップ2023は、いよいよ今週末より決勝トーナメントに突入する。プールマッチを勝ち抜いたトップ8による「負ければ終わり」のノックアウトステージの戦いは、ここまでのゲームから緊迫感と強度がもう一段上がる。いずれの試合も力のこもった80分になるだろう。
14日(土)と15日(日)にマルセイユとサン=ドニの2会場で行われる準々決勝4試合の中で、最初にキックオフを迎えるのはプールC1位のウェールズ対プールD2位のアルゼンチンの一戦だ(日本時間15日00時キックオフ@マルセイユ)。10月9日発表のワールドラグビーランキングでは、ウェールズの7位に対しアルゼンチンは8位。過去のテストマッチはウェールズが14勝6敗1分けとアルゼンチンを上回っているが、2007年以降のワールドカップの戦績はともに4強2回、8強1回と拮抗しており、初めて決勝トーナメントで激突する今回の一戦もタイトなゲームになることが予想される。
ダン・ビガーが勝利に導くか
それぞれのここまでの勝ち上がりを振り返ると、ウェールズはフィジーとの初戦に32-26で競り勝ち、第3戦であとのないオーストラリアを40-6と粉砕して決勝トーナメント進出一番乗りを果たした。2022年はテストマッチ12試合でわずか3勝と苦しんだが、同年12月に復帰した名将ウォーレン・ガットランド監督のもと、今大会にきっちりとピークを合わせてきた印象だ。特に仕上がりのよさが目を引くのはディフェンスで、タックル回数(1試合平均166.8回)、タックル成功率(88パーセント)ともベスト8進出チーム中トップの数字を残している。
メンバー構成はNO8タウルペ・ファレタウやSOダン・ビガー、CTBジョージ・ノース、FBリアム・ウィリアムズら経験豊かなベテランを軸に、WTBルイス・リース=ザミットやWTBリオ・ダイアーら気鋭の若手が勢いをもたらすバランスのとれた布陣。活力みなぎる若き闘将、FLジャック・モーガンも持ち前のハードワークで絶大な存在感を示している。大会前の過酷なキャンプで鍛え上げたフィットネスをベースに攻守とも粘り強く体を張り続け、要所で得点を挙げるスタイルがチームの隅々にまで浸透している。
発表された登録メンバーを見ると、ウェールズは1週前のジョージア戦からスターター6人を入れ替えた。HOにライアン・イライアス、右LOにアダム・ビアードが入り、ジャック・モーガン主将は左FLで先発。前節6番のアーロン・ウェインライトが負傷のファレタウに代わって8番を背負う。HB団もSHガレス・デーヴィスとSOダン・ビガーの主戦コンビに戻り、前回大会トライ王のジョシュ・アダムスが11番に入るというベストに近い陣容だ。
冴えるボフェリのキック
対するアルゼンチンは今夏のザ・ラグビーチャンピオンシップでオーストラリアにアウェイで勝利し、南アフリカにも21-22と肉薄するなどいい状態でワールドカップに向かうと思われたが、プール初戦でレッドカードにより75分以上を14人で戦ったイングランドに10-27と完敗。続くサモア戦もチグハグなプレーに終始し、19-10で勝ったものの、本来の実力には遠く及ばないパフォーマンスだった。しかしプールステージ突破をかけて臨んだ日本との第4戦は、終盤に底力を発揮してハイプレッシャーのゲームを39-27で勝利。ここにきてチーム状態は上向きになりつつある。
キャプテンのHOフリアン・モントージャを筆頭に、LOギド・ペティやLOトマス・ラバニーニ、WTB/FBエミリアーノ・ボフェリら2019年大会の経験者が28~30歳のベストエイジを迎え、こちらも戦力は充実している。日本戦で3トライを挙げた23歳のWTBマテオ・カレーラス、弾丸ボールキャリーが魅力の24歳のPRトマス・ガージョら若いメンバーもインパクトある活躍を見せており、波に乗ればどの相手にも勝利できる力を秘めているのは確かだ。心身両面の柱であるFLパブロ・マテーラが日本戦で負傷したのは痛手だが、FWは各ポジションともファイターぞろいで、マテーラの思いも背負ってチーム一丸で挑んでくるだろう。
アルゼンチンの日本戦からの先発変更は2人。ケガのマテーラに代わってファクンド・イサがNO8でスタメン入りし、前週8番のファン=マルティン・ゴンザレスは6番にシフトした。また34歳のベテラン、ワールドカップ3大会連続出場のトマス・クベリが、ゴンサロ・ベルトラノウに代わってSHのスターターを務める。
世界ランキングの上位4チームが勢ぞろいするサン=ドニでの2試合に視線は集中しがちだが、スタジアムの熱気ならこちらマルセイユも負けてはいない。ノックアウトステージの流れを左右する準々決勝の1試合目。熱闘を期待しよう。
ベテランが勝負を決めた
ひとつのボールキャリー、一発のタックルに、負ければ終わりのノックアウトステージの緊張感は漂った。互いに一歩も引かぬ気迫満点のコリジョンが連続した80分。最終盤まで流れが揺れ動く白熱の激闘は、紙一重のかけひきを制すわずかな経験の差で、アルゼンチンに軍配が上がった。
立ち上がりの30分はウェールズの時間だった。身上の出足鋭いディフェンスから序盤の主導権争いで優位に立つと、14分にミドルエリアでリターンパスを受けたCTBジョージ・ノースがラインブレイク。SHガレス・デーヴィスへのオフロードからSOダン・ビガーへとパスがつながり、ポスト下に先制のトライを刻む。
このプレー中にレフリーのヤコ・ペイパーがふくらはぎを痛め、急遽カール・ディクソンに交代するアクシンデントがあったが、ウェールズの勢いは衰えない。21分にはビガーが正面約35メートルのPGを落ち着いて成功。これでリードは10-0に広がった。
しかし29分のPG機をビガーが外すと、そこまで苦戦を強いられていたアルゼンチンが徐々に息を吹き返し始める。エナジーあふれる連続攻撃で敵陣レッドゾーンに攻め込み、39分にWTBエミリアーノ・ボフェリが正面のPGを決めて3点を返すと、前半ロスタイムにもボフェリがPGを追加。6-10とスコアを縮めて、最初の40分を折り返した。
アルゼンチンは後半に入っても勢いを持続し、44分にボフェリが3本目のショットを決めて1点差に迫る。その4分後には中盤での強烈なタックルで相手の反則を誘い、ボフェリが約55メートルのロングPGを成功。12-10と試合をひっくり返す。
しかしウェールズも当然ながら簡単には引き下がらない。アルゼンチンの不用意な反則に乗じて一気に相手陣22メートル線内まで前進すると、ラインアウト起点の連続攻撃から途中出場のSHトモス・ウィリアムズが自慢の脚力で判断よくラックサイドを抜け出し、インゴール中央にトライ。コンバージョンも決まり、17-12とふたたびウェールズが前に出た。
アルゼンチンは後半に入っても勢いを持続し、44分にボフェリが3本目のショットを決めて1点差に迫る。その4分後には中盤での強烈なタックルで相手の反則を誘い、ボフェリが約55メートルのロングPGを成功。12-10と試合をひっくり返す。
しかしウェールズも当然ながら簡単には引き下がらない。アルゼンチンの不用意な反則に乗じて一気に相手陣22メートル線内まで前進すると、ラインアウト起点の連続攻撃から途中出場のSHトモス・ウィリアムズが自慢の脚力で判断よくラックサイドを抜け出し、インゴール中央にトライ。コンバージョンも決まり、17-12とふたたびウェールズが前に出た。
これで余裕が生まれたアルゼンチンは、その直後にもキックチェイスのディフェンスからHOアグスティン・クレービーがしぶとくボールに絡んでペナルティを奪取。時計が80分を回る中、SOサンチェスが右中間30メートルのPGを決めて、29-17でフルタイムを迎えた。
イングランドとのプールマッチ初戦での完敗からよく立ち直り、試合を重ねるごとにパフォーマンスを向上させて、ついにトップ4にたどり着いたアルゼンチン。主軸選手の多くがキャリアのピークを迎え、この試合ではHOクレービー、SOサンチェスらベテランが勝負どころで決定的な仕事をやってのけるなど、ここにきてチームは急速に進歩を遂げつつある。ここから先はすべて格上相手の厳しい戦いとなるが、2大会ぶり3度目の準決勝では、さらに研ぎ澄まされた攻守を見せてくれるだろう。
「この試合が大一番になること、そして一致団結しなければならないことはわかっていた。(中略)すべてが思い通りにいくわけではない。大切なのはしっかりと反応することだ。我々は最後まで戦い続けることができた」(アルゼンチンHOフリアン・モントージャ主将)
一方のウェールズ。開始からの30分で10-0と先行し、その後も複数の得点機を作れていただけに、痛恨の準々決勝敗退となった。最終スコアは12点差と開いたが、内容としてはひとつのプレー選択、ひとつの判定で勝敗が入れ替わっていた可能性も十分ある際どいクロスゲームだった。
「(アルゼンチンは)ハーフタイム前に少し足が止まったように思ったが、そこで2、3のペナルティを許し、ゲームを振り出しに戻されてしまった。そのソフトなペナルティは残念だった」とウォーレン・ガットランド監督。FLジャック・モーガン主将も、「相手がフィジカルを押し出してくることはわかっていたが、規律とミスが自分たちを苦しめた」とみずから流れを手放したシーンを悔やんだ。