2023年10月14日土曜日
ラグビーワールドカップ2023フランス大会準々決勝
Saint-Denis Stade de France 収容客数81,338人(テレビ観戦)
28 - 24 ALL BLACKS勝利
勝負は残酷だ。
どちらかが準々決勝で大会を去らなければならない。
ラグビーワールドカップ(RWC)2023フランス大会は、決勝トーナメントに突入。
日本時間10月15日(日)の準々決勝、パリ郊外のスタッド・ド・フランスでは、世界ランキング1位のアイルランドと、同4位のニュージーランドが激突する。
「ベスト8の壁」をついに破るか
アイルランドはプールBで4戦全勝。前大会王者の南アフリカ、強敵スコットランドを撃破して実力を再証明した。
しかし準々決勝を目前に控え、不安を覚えているアイルランドサポーターは少なくないだろう。
アイルランドは過去9大会中7大会、準々決勝で敗退している。
7度目の挑戦だった2019年大会は、ニュージーランドに14-46で完敗。またも4強の壁に阻まれ、選手、関係者、サポーターの「今度こそ」の思いは挫かれた。
もはやニュージーランドに対する苦手意識はないはずなのだ。
2016年に初対戦から111年目で初勝利。2022年には敵地で2勝1敗と勝ち越しており、LOタイグ・バーンは当時を振り返って「アウェーでのシリーズ勝利はそれまで成し遂げたことがなく、そこから得られる自信はある」と語った。
キャプテンを務めるSOジョニー・セクストンも今週、大一番へ向けて「ここ数年ニュージーランドとは良い戦いをしてきた。また接戦になるのでは」と自信の滲むコメントを残している。
ただ脅威となりうる存在が相手首脳陣におり、在任中に2度(2016、2018)オールブラックスを破った元アイルランド代表HCのジョー・シュミットが、母国ニュージーランドのコーチングスタッフに入っている。
アイルランドの内情を知る人物であり、SOセクストンも「ジョー(シュミット)のコーチングの成果が見られる」と警戒する。
心配の種は尽きない。しかしいまや世界ランキングは最高位だ。
オール・アイルランドの悲願達成へ向けて、アンディ・ファレルHCはメンバー23人を発表。プール最終戦から先発メンバーに変更はなかった。
大会前の負傷から無事復帰したHOダン・シーハン。怪力タイトヘッドPRのタイグ・ファーロング。2022年の世界最優秀選手である精密タックルマシーン、FLジョシュ・ファンデルフレイアー。
絶対的司令塔のSOセクストンをはじめ、最多61回のランを記録するなど絶好調のCTBバンディ・アキ。そしてニュージーランド出身で元チーフスのWTBジェームズ・ロウにとっては、W杯で母国と決闘する運命となり、キャリア最大級のチャレンジだ。
4度目の頂点へ前進するか
必勝の一戦へ向けて、フォスターHCは73得点したウルグアイ戦から先発6人を変更。
NO8アーディー・サヴェアをはじめPRイーサン・デグルート、LOスコット・バレット、SHアーロン・スミス、CTBリーコ・イオアネ、FBボーデン・バレットが先発へ。
引き続きの先発では怪我からFLサム・ケイン主将、CTBジョーディー・バレットら現状ベストのメンバーが揃った。
ニュージーランドは負ければ2007年フランス大会以来、ワーストタイの屈辱だ(ウェールズ・カーディフでフランスに18-20)。
一人のラグビーファンとしての思いを語らせてもらえるならば、どちらにも負けてほしくない。
オールブラックスには強くあってほしい。しかしアイルランドにも“8度目の正直”を味わってほしい。
勝負は残酷だ。運命のキックオフは、日曜日の午前4時(現地時間は土曜日の午後9時)だ。
勝敗を超えた名勝負
「アイルランドが37フェーズ攻撃したあの試合」――。
第10回大会の準々決勝「アイルランド×ニュージーランド」は、そんな常套句で永く語り継がれるのかもしれない。
ラグビーワールドカップ(RWC)2023フランス大会の準々決勝。
世界ランキング1位のアイルランド(プールB・1位)と、同4位のニュージーランド(プールA・2位)の一戦は死闘になった。
戦前評はニュージーランド不利。それもそのはず、昨年本国ではシリーズ1勝2敗と負け越し。
アイルランドはテストマッチ17連勝中。かたやニュージーランドは大会直前に南アフリカに大敗し、大会開幕戦では開催国フランスに史上初のプールステージ黒星を喫していた。
しかし。
2本のペナルティゴール(PG)で6点を先制したニュージーランドは、前半19分だった。
今季トヨタヴェルブリッツでプレーするFBボーデン・バレットが防御裏へのショートパントを再獲得。ここでモメンタム(勢い)を生み出し、WTBレスター・ファインガアヌクが両軍最初のトライ(ゴール成功)。
下馬評を覆す猛攻で、ニュージーランドが開始20分で13点をリードした。
アイルランドも1分後(前半22分)、今大会での引退を表明している38歳、SOジョニー・セクストンのPGで3点。絶好調のCTBバンディー・アキのトライも加え、前半30分までにスコアを3点差(10-13)まで縮めた。
息を呑むハイレベルな応酬は続いた。
アイルランドのNO8ケーラン・ドリスがジャッカルでエリアを押し戻せば、ニュージーランドのWTBウィル・ジョーダンがキック「50:22」で前進。
ここからニュージーランドは前半33分NO8アーディー・サヴェア(今季よりコベルコ神戸スティーラーズ)の2トライ目に繋げてみせた。
しかし前半37分に転換点。
ニュージーランドのSHアーロン・スミス(今季よりトヨタヴェルブリッツ)が、故意のノックオンによりシンビンに。
14人の間にニュージーランド出身のSHジャミソン・ギブソンパークにトライを奪われ、アイルランドはビハインドを1点(17-18)に縮め、後半へ向かった。
ここでオールブラックスは粘った。
後半開始から追加点を許さない。守り切り、SHスミスが戻って15人となると後半13分。
ニュージーランドは大会後に東芝ブレイブルーパス東京出プレーするSOリッチー・モウンガの俊足が閃き、ラインアウトの一次攻撃でビッグゲイン。フォローしていたWTBジョーダンのトライに繋げた。
キック成功でリードを8点(25-17)に広げたこのトライが大きかったと、今大会後に退任するニュージーランドのイアン・フォスターHCは振り返った。
「長い距離を走られてトライを取られるとチームは意気消沈するもの。このトライの結果、私たちは(リードを)8点に広げることができました。勝敗を分けた大きな瞬間でした」
しかし世界ランク1位、17連勝中のアイルランドは気迫をみせる。
過去9大会中7大会で準々決勝敗退。一度も決勝トーナメントでの勝利がない過去を変えるべく、後半23分にモールで攻勢。
ここでアイルランドにペナルティトライ。反則でトライを防ごうとしたニュージーランドHOデイン・コールズがシンビンとなった。
が、その後、アイルランドは得点を重ねられなかった。
「2枚のイエローカードをもらいましたが、粘り強く戦いました。今夜はディフェンスが際立っていました」(ニュージーランド・FLサム・ケイン主将)
14人のニュージーランドはPG加点でリードを4点(28-24)に広げると、後半30分だった。
ゴールラインを背負ったが、CTBジョーディー・バレットが会心のトライセーブ。グラウンディングを許さぬ巧みなボディコントロールで、勝利を手繰り寄せた。
試合終盤、4点ビハインドのアイルランドは逆転トライを目指し、37フェーズにわたる連続攻撃を重ねた。「37次」はテストマッチでまず見ない数字だ。
ニュージーランドのFLケイン主将は「今までに見聞きしたことがないほどの連続攻撃だった」と振り返り、チームの守備を誇った。
「今夜はディフェンスのおかげで勝利を勝ち取りました。ワールドカップで優勝するチームはディフェンスが優れていることは歴史が証明しています。これを今後の私たちのスタンダードにします」(FLケイン主将)
最後は途中出場していたサム・ホワイトロックがジャッカル成功。アイルランドの38フェーズ目はなかった。
オールブラックスは歓喜に湧き、前半シンビンを受けたSHスミスはしゃがみ込み、目頭を押さえた。これでアイルランドは8度目の準々決勝敗退となった。
アイルランドのアンディ・ファレルHCは試合後、勝負について「微々たる差」と語り、敗着の決定的プレーにニュージーランドのCTBバレットによる「モールの後に相手に抱えられた場面」を挙げた。
「アイルランドラグビーに関わる全ての人のことを誇りに思います。スタッフも過去4年間、素晴らしい仕事ぶりでした」
無念の結末で引退を迎えたSOセクストン主将。最後の37次攻撃を振り返って「あれだけ多くのフェーズを重ねたことが、このチームが何でできているかを表しています。全てを出し切りました」と語った。
そしてアイルランド代表の未来について話した。
「本当に素晴らしいチームです。彼らは私以外の誰かによって率いられ、また立ち上がり、今後素晴らしい功績を成し遂げるでしょう。私はその時、皆さんと同じようにスタンドでビールを飲みます」
ニュージーランドのフォスターHC。不振による解任騒動まであったが、大一番を乗り越えた。
「ひとつのミスで試合が逆の展開になっていた可能性もあります。このような試合を経験しなかったらワールドカップに出場したとは言えません」
次戦は南半球4カ国対抗戦で毎年対戦しているアルゼンチン。
「アルゼンチンのことはよく分かっていますし、相手も私たちのことをよく理解していると思います。南半球のチーム同士の試合なので、もの凄い試合になるでしょう」
「もの凄い試合」の鉄笛は、日本時間10月21日の午前4時に鳴る。