2023年10月15日日曜日
ラグビーワールドカップ2023フランス大会準々決勝
Marseille Stade de Marseille 収容客数67,394人(テレビ観戦)
30 - 24 England勝利
8月26日に行われたワールドカップ直前の前哨戦は、フィジーが聖地トゥイッケナムでイングランドから初勝利(30-22)を挙げる歴史的なテストマッチとなった。それから7週間。プールC2位で4大会ぶり3度目の決勝トーナメント進出を果たしたフィジーが、プールDを1位で通過したイングランドに、準々決勝でふたたび挑む(日本時間10月16日00時キックオフ@マルセイユ)。
7週間前のリベンジ
ワールドカップまで1年を切った時点でのヘッドコーチ交代劇に始まり、トレーニングマッチでの低調なパフォーマンスや、SO/CTBオーウェン・ファレルのレッドカード騒動などネガティブな話題が続いた今回のイングランドだが、大会に入ってからはそうした雑音を振り払うような力強い戦いぶりでプールDを全勝で突破した。底力を証明したのはアルゼンチンとの初戦で、開始早々にFLトム・カリーがレッドカードで一発退場になるアクシデントに見舞われながら、強みであるセットピースとキック、ディフェンスに戦術を絞り込み、27-10で完勝。派手さこそないものの最短距離で勝利にアプローチする堅実な試合運びは、続く日本戦でもおおいに威力を発揮した。
ケガや出場停止でなかなかベストメンバーを組めなかったが、陣容もここにきて整いつつある。HOジェイミー・ジョージにLOマロ・イトジェ、FLコートニー・ロウズ、SO/CTBファレル、CTBマヌ・トゥイランギと要のポジションにワールドクラスの実力者が並び、22歳の新星、196センチ、101キロの大型FBフレディー・スチュアードもすっかり主軸に成長。プレーにおけるキックの割合が68パーセントと並外れて高く(他の8強進出7チームの平均は54パーセント)、“退屈なスタイル”と批判を受けることも多いが、型にはまった時の支配力は圧倒的だけに、対戦相手にとっては厄介なチームだろう。
登録メンバーを見ていくと、イングランドの前節サモア戦からの先発変更は2人。11番に万能BKエリオット・デイリー、15番にはプレーメイカーのマーカス・スミスが新たに起用され、キャプテンのファレルは10番でゲームコントロールを担う構成となった。ジョー・マーチャントが前週の14番から13番、ジョニー・メイが11番から14番にそれぞれスイッチする。SOファレル、FBスミスのコンビがどのように機能するか注目だ。
歴史的な初勝利か連勝なるか
対するフィジーは「同国史上最強」という前評判通りの実力を披露し、2007年のフランス大会以来となるトップ8入りを成し遂げた。ウェールズとの初戦は26-32で敗れたものの、ラストプレーでトライ寸前まで迫る紙一重の惜敗。続くオーストラリアとの第2戦は22-15の最終スコア以上に差を感じる快勝だった。プール最終戦でポルトガルの渾身のチャレンジに23-24と苦杯を喫し、オーストラリアと勝ち点11で並んだ末に直接対決の結果で辛くも2位で通過するという際どい勝ち上がりとなったが、その苦い経験を薬に準々決勝では引き締まったプレーを見せてくれるはずだ。
フィジーといえば“マジック”とも称される変幻自在のランニングラグビーでおなじみだが、現在のチームはディフェンスや規律の面で統制がとれていることも大きな強みになっている。1試合平均のターンオーバー数(8.0)は、ベスト8進出チームの中でトップ。エロニ・マウィ、ルケ・タンギと130キロ超の大型PRを擁するスクラムの推進力も強烈で、バックローではFLレヴァニ・ボティアが攻守にわたり獅子奮迅の活躍を見せてきた。BKはプレー、メンタル両面の支柱であるキャプテンのCTBワイセア・ナヤザレヴを筆頭に、チャンスメークからフィニッシュまでこなす好ランナーぞろいで、勢いに乗ればどの相手にも勝利できるポテンシャルを秘める。
フィジーは、1週前のポルトガル戦からスターター5人を入れ替える布陣を組んできた。HOはテヴィタ・イカニヴァレがリザーブから繰り上がり、バックローでの起用が多かったアルバート・トゥイスエが右LOで先発。6番レキマ・タンギタンギヴァル、11番セミ・ランドランドラ、15番イライサ・ドロアセセは9月30日のジョージア戦以来2試合ぶりのスタメンだ。また前節11番のヴィナヤ・ハンボシは、右WTBに移ってのスタートとなる。
10月9日発表のワールドラグビーランキングではイングランドが6位、フィジーが10位。8月の対戦時と比較すると、両チームとも当時の先発15人のうち10人を今回のスターターに起用してきた。フィジーとすれば迷いなく挑戦できる状況であり、イングランドは前回敗戦の雪辱に燃えているはず。お互いの意地と気迫がぶつかり合う激戦となりそうだ。
ファレルのキックが勝負を分ける
30-24点差で迎えた後半のラストシーン。時計はすでに80分を回っている。プレーが切れれば試合も終わる緊張感の中、6点差を追うフィジーは敵陣30メートル付近で得たマイボールスククラムから、最後の猛攻を仕掛けた。
懸命にパスをつないで突破を図るフライング・フィジアンズ。しかしイングランドも死力を尽くしたディフェンスで前進を阻止する。ペナルティを挟んで5分以上も息づまる攻防が続く中、ラックでフィジーの人数が薄くなったところを見逃さずイングランドのFLコートニー・ロウズがボールに絡み、値千金のペナルティを獲得。キャプテンのSOオーウェン・ファレルがタッチへ蹴り出して、激闘に終止符を打った。
10月15日にスタッド・ド・マルセイユで行われた準々決勝第3試合。世界ランキング6位、プールDを首位で通過したイングランドに、同10位、史上初のベスト4進出に意気込むプールC2位のフィジーが挑んだ一戦は、戦前の予想通り対照的なお互いのスタイルがぶつかり合う熱戦となった。
序盤、優勢に試合を進めたのはイングランドだ。開始11分にSOファレルのPGで先制すると、14分にはゴール前ラインアウトからFWが自慢のモールでジリジリと前進。フィジー防御の意識を近場に集めたところで、ショートサイドに走り込んだCTBマヌ・トゥイランギが左コーナーに飛び込み、8-0と先行する。
20分にフィジーSHフランク・ロマニのPGで3点を返されたものの、イングランドは直後の中盤ラインアウトからスピーディーにラックを連取して波状攻撃を仕掛け、相手陣ゴール前へ前進。23分、左展開でパスを受けたCTBジョー・マーチャントが鋭く切れ込み、左中間に飛び込んだ。
奮闘しながらチャンスが遠く、WTBヴィナヤ・ハンボシが危険なタックルでイエローカードを受けるなど苦しい状況のフィジーだったが、ここから反撃に転じる。28分、ラインアウト起点の攻撃でパワフルなFW陣がラッシュをかけ、敵陣レッドゾーンへ侵入。SOヴィリモニ・ボティトゥの股下を通すパスからNO8ヴィリアメ・マタがパスダミーで抜け出し、ポスト左にすべり込む。SHロマニがコンバージョンを決め、10-15と5点差に詰め寄った。
その後も気迫あふれるファイトを見せたフィジーだったが、イングランドも簡単には主導権を渡さない。34分、ファレルが右中間約30メートルのPGを通して3点を返すと、38分にも同じような位置からPGを追加。21-10とリードを広げて前半を折り返した。
後半。イングランドは立ち上がりからエンジン全開で攻め込むが、フィジーも厳しいタックルを連発してゴールラインを死守する。その後も互いに厳しい防御でピンチの芽を摘む引き締まった攻防が続いた。
ふたたびスコアが動いたのは54分だ。敵陣に攻め込んだイングランドは、持ち前のパワーを生かしてフィジーを圧迫し、ゴール前でペナルティを誘発。SOファレルがなんなくPGを決め、3点を追加する。
2トライ2ゴール差で迎えたラスト20分。土俵際まで追い込まれたフィジーだったが、ここから真価を発揮する。イングランドの献身的なカバーディフェンスに再三好機を逸しながらも衰えぬ気力で挑み続け、ジリジリと敵陣深くへ前進。そして64分、ハードワークがようやく結実し、CTBワイセア・ナヤザレヴの左ライン際での突進からすばやく逆目に折り返して、途中出場のPRペニ・ラヴァイが豪快に突き抜ける。
これで波に乗ったフィジーは、さらに続くキックオフからWTBセミ・ランドランドラのビッグゲインを起点に一気に敵陣へ。67分、SHシミオネ・クルヴォリの蹴ったPGはポストに当たりノーゴールとなるも、跳ね返ったボールを確保してフェーズを重ね、相手防御を揺さぶる。そしてLOイソア・ナシラシラの中央突破から、外をサポートしたSOヴィリモニ・ボティトゥが一直線にポスト下にトライ。今度はクルヴォリがコンバージョンを決め、ついに24-24の同点に追いついた。
異様な熱気に包まれるスタジアム。勢いは完全にフィジー。しかし数々の修羅場をくぐり抜けてきたイングランドは、この窮地にも動じなかった。続くターンから着実に敵陣22メートル線内に攻め込むと、フィジーディフェンスの意識が分散したところで72分にSOファレルが判断よくDGを成功。残り8分で3点のリードを奪う。
フィジーも負けじと猛チャージでたたみかけるが、イングランドはここでも卓越した集中力を発揮してゲインラインバトルで奮闘。75分過ぎにはフィジーが強引にオフロードをつなごうとしたところで鋭く食い込み、ターンオーバーからNO8ベン・アールが大きく切り返す。フィジー陣22メートル線内でペナルティを得るや、ファレルのPGでリードを6点に広げた。
それでもフィジーは最後まで勝利を信じ攻め続けたが、イングランドも渾身のディフェンスで相手を押し戻す。そして86分、冒頭のように勝利を決めるターンオーバーを勝ち取り、歓喜のフルタイムを迎えた。
両者とも最後まで一歩も引かぬ激闘を終え、「我々はここという場面でチャンスをものにすることができたが、それもディフェンスでのすばらしいパフォーマンスがあったからだ」と語ったのは、イングランドのファレルキャプテンだ。キックとディフェンスを軸にした堅い試合運びには批判的な声も多いが、自分たちの強みを誰よりも理解し、スタイルを迷いなく貫いたことが、この日の勝利とベスト4入りにつながったのは間違いない。「このチームは勝つための方法を知っている」とファレルも胸を張る。
史上初の準決勝進出はならなかったものの、フィジーの情熱に満ちた戦いぶりは観戦者の心を激しく揺さぶった。「この15週間、選手たちはハードワークしてきた。結果という点では傷ついているが、彼らが打ち込んできたものについてはこれ以上ないほど誇らしく思う。彼らは次世代のフィジーのラグビー選手のために、大切なものを築いてくれた」とサイモン・ライワルイヘッドコーチ。不屈の姿勢と鮮烈な印象を残して、大会をあとにした。