2023年10月27日金曜日
ラグビーワールドカップ2023フランス大会3位決定戦
Saint-Denis Stade de France 収容客数81,338人(テレビ観戦)
26 - 23 England勝利
タフな極限世界「W杯3位決定戦」
ラグビーW杯優勝の夢は、準決勝で潰えた。
それでも気力と体力を振り絞り、もう一度戦わなければならない。
モチベーション維持の難しさでは決勝戦を上回る、タフな極限的世界がラグビーW杯の3位決定戦だ。
日本時間10月28日土曜日(現地時間27日)、パリ郊外サンドニのスタッド・ド・フランスで、アルゼンチンとイングランドが激突する。
失意のEngland
イングランドのFBフレディー・スチュアードは今週、南アフリカに1点差(15-16)で敗れた準決勝後の気持ちを問われ、こう吐露した。
「あれ以来、毎日1時間の間に少なくとも数回は(準決勝のことを)考えてきました。接戦で負けるよりも、20、30点差で負けた方が受け入れることは簡単なのです。私たちは全員、打ちのめされています」
しかし再起すれば、勝利で大会を終えるチャンスが与えられている。
「誇れる仕事をしようと思います。一番やりたくないことは、2敗してワールドカップを終えることです」(イングランド、FBスチュアード)
アルゼンチンの先発変更が3人(FW1人、BK2人)だった一方で、イングランドは15人中8人(FW5人、BK3人)と大きく変えてきた。
FWの変更はFW第1列の3人と、LOオーリー・チェサム、2019年大会決勝以来のW杯ゲームとなるFLサム・アンダーヒル。
BKは代表引退を表明しているベテランSHベン・ヤングズ、WTBヘンリー・アランデル、FBスミスの3人となった。
2022年末に解任された前指揮官エディー・ジョーンズの後を継ぎ、ここまで辿り着いたイングランドのスティーヴ・ボーズウックHC。
試合のメンバー選考について問われると「優秀なアルゼンチンを相手に勝ちたいだけで、かなりシンプル」なプロセスだったと語った。
「この大会を通してスコッドは成長してきたので、この成長を続けたいと思っています。ここ2週間は厳しい試合もあったので、(選手の)変更については試合でエネルギーを発揮する為のものです」(イングランド、ボーズウィックHC)
また、準決勝後に南アフリカのHOボンギ・ンボナンビから差別発言を浴びたと話し、統括団体「ワールドラグビー」が調査に乗り出す騒ぎとなっているFLカリーも先発メンバーに名を連ねた。
ボーズウィックHCは「これはトム・カリーの事件ではありません」と話した。
「誰かが言った事が報告され、今ではワールドラグビーの一件となっています。この件について、私たちが伝えなければならないことは伝えました」
「彼(FLカリー)は、これまで他のどの選手よりも多くの試合に関わっていたため、週の初めに彼の身体の状態について話をしました。彼は私の目を真っ直ぐに見て、『何があっても金曜の夜にプレーしたい』とすぐに言いました」
指揮官は「彼の準備はこれまでと同じように極めてプロフェッショナルだった」と評価。背番号6の起用を決めた。
リベンジを狙うArgentina
準決勝でニュージーランドにノートライで完敗(6-44)を喫した、アルゼンチン。
アルゼンチンのCTBヘロニモ・デラフエンテは、3位決定戦へ向けて「敗戦しての帰国と、勝利しての帰国は違う」と話した。
「(銅)メダルを身に着けるのと、着けないのでは大きな違いがあります。私たちの目標は金メダル(優勝)を目指して決勝でプレーすることでしたが、今もまだメダルを勝ち取るチャンスがあります」
「メダルに関わらず全ての試合に勝ちたいと思ってはいますが、メダルがチーム、ファン、そして国にとって励みになることは確かです」
アルゼンチンには「借りを返す」というモチベーションもあるだろう。
前回対戦は9月のプールステージ第1戦。ジョージ・フォードに3本のドロップゴールなど27得点を奪われ、10-27で敗戦した。
前半3分に相手FLトム・カリーが退場となったにも関わらず、7人FWでスクラムを押されるなどし、数的優位を活かしきれなかった。3位決定戦はリベンジの好機だ。
南半球の側に立てば、3位決定戦は決勝に進出したニュージーランド、南アフリカと合わせ、W杯の表彰台を南半球勢で独占する機会。南半球のラグビー関係者はアルゼンチンの勝利を願っているかもしれない。
そんなアルゼンチンは、準決勝から先発3人を変更。LOペドロ・ルビオーロ、SHトマス・クベリ、CTBデラフエンテが新たに入った。
南米最強軍団を率いるマイケル・チェイカHC(ヘッドコーチ)は、今大会2度目となるイングランド戦へ、万全をアピールした。
「イングランドの試合は分析しました。(マーカス)スミスが15番に入り、ボール扱いが上手い(テオ・)ダンがフッカーに入っているので、より展開のある試合を予想しています」
イングランドの得意領域についても十分な注意を払う。
「イングランドのキックゲームについては準備をする必要があります。たくさんのランが見られるでしょう」
またこの試合がチーム最後の指揮になるかについては「全く分かりませんし、それについては考えていません」と語った。
場外での騒ぎを含め、より一層の精神力が求められるかもしれない2023年W杯の3位決定戦。
イングランドよりも試合間隔が一日多く、リベンジというモチベーションがある分、メンタル面ではアルゼンチンが有利か。
どちらもキックゲームが得意だが、スクラム戦ではイングランドに分がある。アルゼンチンはセットピースの安定こそが、2007年以来4大会ぶりの最高3位タイへの道筋だろう。キックオフは日本時間土曜の午前4時(現地午後9時)に迫る。激戦の結末は、果たして――。
「大会を通して成長した」イングランドが銅メダル
大会前にイングランドの3位を予想した人は多くなかっただろう。
当の選手でさえ、前向きではなかった。
フィジーに初黒星を喫するなど1勝3敗と不調だった大会前を振り返り、イングランドのHOセオ・ダンは3位決定戦後、「チームとして結束できていなかった」と率直に回顧した。
「私たちは結束しておらず、パフォーマンスも不十分でした。2、3カ月前に時間を巻き戻して『あなたは銅メダルを獲得し、世界で3位になるだろう』と言われても信じられなかったでしょう」
イングランドのSOオーウェン・ファレル主将も、大会中にこそ成長したと総括した。
「(2023年の)シックスネーションズで望んでいた結果を得ることができず(4位)、それは大会前でも同じでしたが、ここ(W杯)へ来てから私たちはどんどん良くなりました」
日本時間10月28日に行われた、ラグビーW杯2023フランス大会の3位決定戦。
日本がプールステージで戦った2チーム、イングランドとアルゼンチンがパリ郊外サン・ドニで激突。3点差(26-23)の大接戦を繰り広げた。
機先を制したのはイングランド。開始13分で13点を先取した。
まずFLトム・カリーの敵陣ジャッカルでショット成功。前半7分には短い攻撃回数(5フェーズ)でトライを奪い、2本目のPGも追加。効率的に13点をリードしたのだ。
南米最強アルゼンチンも魅せる。
お互いにPGを追加して13点ビハインド(3-16)の前半36分。
折り返しながらピッチ幅いっぱいに順目攻撃を9回続け、フィニッシュはSHトマス・クベリ。全ランナーがゲインする攻撃力で6点差(10-16)に詰め寄り、前半を終えた。
めまぐるしくスコアボードが動いたのは後半開始直後。
まずウイング経験が豊富なSOサンティアゴ・カレーラスが、相手HOダンを振り切って独走トライ。ゴール成功で16-15と逆転し、この日初めてリードを奪った。
しかしイングランドは、その直後だった。
「私のミスタックルが相手からのトライに繋がり、チームにとって致命的になる可能性がありました。ミスを取り返すことが出来て嬉しかったです。」(イングランドHOダン)
タックルを外されて失点原因を作ったHOダンが、敵陣で相手SOカレーラスのキックをチャージ。再獲得から逆転トライを奪い、イングランドがふたたび6点リード(23-17)を奪ってみせた。
勝負の分かれ目は、後半35分のショットだったろう。
点差は3点(23-26)。アルゼンチンが2本のPGで詰め寄っていた。
アルゼンチンはWTBマテオ・カレーラスの好走などで敵陣ペナルティを奪取。ショットを選択肢し、途中出場のベテラン司令塔、ニコラス・サンチェスがキッカーとしてHポールに向かった。
蹴り上げられた楕円球は、しかしHポールの左に反れた。
諦めないアルゼンチンは逆転を懸けて自陣からアタック。しかし足元でボールが暴れる不運もあり攻撃フェーズが伸びない。
最後はターンオーバーを狙ったラックでペナルティを取られ、万事休す。
ベスト4唯一の北半球チームだったイングランドが、死闘を制し、3位の座におさまった。
「負けたことを受け入れるのは難しいです」と、アルゼンチンのマイケル・チェイカHCは敗戦後に語った。
「モールとスクラムは一貫性を保つ必要があります。効果的な時もありますが、ミスをする時もありました。もっと一貫性が必要です」
日本戦は3トライの活躍で試合の最優秀選手に選ばれたWTBマテオ・カレーラスは「本当に悲しいです」と、悔しさを噛みしめた。
「このチームはもっと出来たと思いますし、後味の悪いこの4位という結果は、私たちに相応しくはありません」
アルゼンチンのHOフリアン・モントージャ主将は「私たちはアルゼンチンを誇らしい気持ちにしたいと思っていました」と悲痛だったが、さらなる進化を誓った。
「時に最善の努力をしても足りないことがあります。今日がまさにそうでした」
「しかし私たちは挫けず、改善を続けるべきです。痛みはあるものの、継続する必要があります」
プレイヤー・オブ・ザ・マッチ(POTM)は、イングランドのFLサム・アンダーヒル。24タックルを放った頑強なフランカーは「信じられません」と喜びもひとしお。
HOダンは大会最終戦を勝利で飾り、「望んでいたメダルではなかった」としながらも、「銅メダルを獲得できて私たちは喜んでいます。これは私たちや故郷の皆にとっても多くの意味を持ちます」と充実感を口にした。
イングランドを3位に導いたスティーヴ・ボーズウックHC。「選手は本当に努力をしてきたので嬉しい」と、勝利を噛みしめた。
「7試合中6試合に勝つことが出来ました。世界チャンピオン(南アフリカ)には1点差で負けました。これはこのチームの成長を表していると思います」
大会前に強かったチームより、大会中に強くなったチームが勝ち進む。大会前の不調から立ち直ったイングランドは、ラグビー発祥国の未来に資する結果を手にした。
「私たちは金メダルを目指していましたが、それは達成できませんでした。しかし最終戦という経験はとても大事で、この先にとって重要なものになるでしょう」(イングランド、ボーズウィックHC)