2023年9月16日土曜日

ラグビーワールドカップ2023フランス大会予選プールB組

Nantes Stade de la Beaujoire 収容客数38,285人(テレビ観戦)

59 - 16 Ireland勝利

アイルランドラグビー協会エンブレム

決勝トーナメントへ油断なし

現在の世界ランキングは堂々の1位。昨季史上初めてオールブラックスとのテストシリーズに勝ち越し、今年度のシックスネーションズは全勝でグランドスラムを達成、8月にはイングランドを1トライに抑えて29-10の完勝を収めた。ここ2シーズンの実績と充実ぶりを見れば、優勝候補の筆頭格といえる存在である。

しかし、それでも、「アイルランドは本当に今回のワールドカップで成功できるか」の疑念はくすぶる。過去の大会におけるおかしなほどの低調な成績ゆえだ。

1987年の第1回から全大会に出場し、何度も上位進出を期待されながら、決勝トーナメントではいまだ未勝利。ファウンデーション・ユニオンと呼ばれる伝統8か国の中で唯一、決勝はおろか準決勝の舞台にすら立ったことがない。過去7度阻まれてきた準々決勝の壁を、今度こそ突破できるのか――。世界中のラグビーファンが、そんな視線でエメラルドグリーンのジャージーを見つめている。

アイルランドはすでに初戦を終えており、9月9日にボルドーでルーマニアに82-8と大勝。今大会の雰囲気を経験した上で迎えるこの試合は、さらにいい精神状態で臨めるだろう。23日のサンドニでの南アフリカとの大一番(日本時間24日04時キックオフ)にはずみをつけるためにも、いい内容で勝利したいという思いは強いはずだ。

ックオフ2日前に発表された登録メンバーを見ていくと、アイルランドはルーマニア戦から先発4人を入れ替えた。新たにスターターに名を連ねたのは、HOロブ・ヘリング、FLジョシュ・ファンデルフレイアー、SHジャミソン・ギブソンパーク、WTBマック・ハンセンで、前節ブラインドサイドFLを務めたタイグ・バーンがLOに、ピーター・オマーニーは7番から6番に回る。15人合計のキャップ数は819で、ほぼベストといっていい構成だ。

番狂わせを起こせるか

そのアイルランドが9月16日のプールマッチ第2戦で激突するのは、今大会のダークホースの一角と目されるトンガだ(@ナント、日本時間17日04時キックオフ)。こちらも過去8回の出場はすべてプールマッチ敗退に終わっているが、ワールドラグビーの出場資格の規約改定により他国代表経験者がルーツを持つ国に代表資格を変更できるようになり、海外の一流クラブで活躍するビッグネームが数多く今回のスコッドに名を連ねた。

その顔ぶれを見ると、元ニュージーランド代表のFBチャールズ・ピウタウ(今季静岡ブルーレヴズに加入)やCTBマラカイ・フェキトア、CTBジョージ・モアラ、SHオーガスティン・プル(日野レッドドルフィンズ所属)、FL/NO8ヴァエア・フィフィタら日本でもおなじみの実力者がずらり。現浦安D-RocksのFBイズラエル・フォラウがケガで外れたのは痛恨だが、豪州代表経験のある204センチのLOアダム・コールマンも参戦が決まった。

もとよりフィジカリティでは世界有数の肉体派集団に、トップレベルの国際試合を経験してきた世界的スターが多数加わったのだから、これまでとは別のチームと見ていいだろう。7、8月のテストマッチシリーズでは思うように勝利をつかめなかったが、連携を高めて挑むワールドカップ本番では、大幅にパフォーマンスを上げてくることが予想される。

トンガはこれが初戦。ナーバスになりやすいシチュエーションに、気迫みなぎる激しいコリジョンからペースをつかむスタイルということもあり、ヒートアップしすぎて規律が乱れないかという点が最大の気がかりだ。この部分でも、経験豊富なインターナショナルプレーヤーたちの存在は大きな鍵となる。

登録メンバーを見ていくと、FBピウタウ、CTBフェキトア、SHプル、NO8フィフィタと、スターターに4人の元オールブラックを並べる強力な布陣を敷いてきた。キャプテンを務めるのは公称145キロ、「ビッグ・ベン」の愛称を持つ巨漢PRベン・タメイフナ。フロントロー3人の総体重は387キロで、FW8人平均で身長190.1センチ、体重119.9キロという超大型パックになった。

トンガとしてはコンタクトエリアのバトルで激しく体を当ててプレッシャーをかけ、得意の肉弾戦から突破口を開きたいところだろう。もっともアイルランドも強力なFW陣が現在の充実の原動力となっており、前に出る推進力とセットプレーの支配力は出場国中随一。見応えあるファイトが繰り広げられそうだ。

次戦に向けて死角なし

4人の元ニュージーランド代表を含む充実布陣のトンガから8トライを奪って完勝を収めた。相手の猛烈なヒットにもまるで怯まず、堂々と受け止め、はね返し、圧力が緩んだ瞬間にたたみかけてスコアを重ねる。凄みすら感じさせる圧巻のパフォーマンスで、世界ランキング1位のアイルランドが今大会最初の関門を突破した。

開始7分にアイルランドのジョニー・セクストン、16分にトンガのウィリアム・ハヴィリと両SOがPGを決め合う中、アイルランドが最初のトライを刻んだのは21分だった。左ラインアウト起点のアタックで順目を攻め、NO8ケーラン・ドリスが縦に鋭く切れ込んで防御ラインを突破。内をサポートしたLOタイグ・バーンがタックルを受けながら腕を伸ばし、右ポスト脇に押さえる。

トンガも24分にハヴィリが右中間約50メートルのロングPGを決め喰らいつくが、直後にWTBソロモネ・カタがレイトチャージでペナルティを与え、自陣22メートル線内への侵入を許してしまう。アイルランドはこのチャンスでラインアウトからモール勝負を挑み、ドリスが密集脇をこじ開けてトライ。セクストンのゴールも決まり、17-6と引き離しにかかる。

これでペースをつかんだアイルランドは33分、よどみなく攻撃を継続して相手防御を揺さぶり、WTBマック・ハンセンが隙間を縫うような走りでインゴールへダイブ。その後も攻守に厳しくプレッシャーをかけ続け、トンガの勢いを封じ込める。38分には得意の狭いスペースでの細かいつなぎでラックサイドをブレイクし、最後はセクストンがアイルランド代表史上最多得点を更新するトライを中央に決めた。

ただ、トンガもこのままでは終わらない。時計が40分を回ったところから相手陣深く攻め込み、FWが真っ向勝負でゴールラインに肉薄。FLピーター・オマーニーをシンビンに追い込み、ロスタイム7分を超えたところでスクラムサイドを突いたNO8バエア・フィフィタがポスト右に飛び込んだ。

31-13で迎えた後半。フロントロー3人とセクストンを早々に交代させたアイルランドに対し、トンガは43分にスクラムでペナルティを獲得すると、ハヴィリが落ち着いて正面やや左のPGを通す。差を15点に縮め、勢いに乗るかと思われた。

しかしアイルランドもここで底力を発揮する。SHコナー・マレーや入替で登場したSOロス・バーンが巧みなキックでトンガを背走させ、じわじわと体力を奪うと、敵陣で優勢にゲームを展開。51分にHOロブ・ヘリングがペナルティから押し込んだシーンはダブルモーションでトライキャンセルとなったが、59分にラインアウトモールをドライブし、相手防御が手薄になったところをSHクレイグ・ケイシー→WTBジェームズ・ロウで崩し切った。

すさまじかったのはここからだ。スコアが開いたことに疲れも重なってトンガの足が止まり始めるや容赦なくたたみかけ、63分にラインアウト起点のBK展開からCTBバンディー・アキが豪快に中央を突き抜けて走り切る。さらに6分後にも11フェーズにおよぶ長い連続攻撃を仕留め切って、アキが悠々とポスト下へ。

最後の仕上げは80分だ。ゴール前マイボールラインアウトからのモールは押し切れなかったものの、直後の相手投入が乱れたところにHOヘリングが反応し、今度はしっかりとフィニッシュ。最終スコアを59-16まで伸ばして、フルタイムを迎えた。

文句なしの内容で難敵に快勝し、ボーナスポイントつきの勝ち点5を手にして激戦のプールBで首位を維持したアイルランド。万事に隙を見せず、自分たちのスタイルを忠実に遂行する磐石の戦いぶりは、ことごとくベスト8の壁に阻まれてきた過去のワールドカップからの決別を力強く宣言するようでもあった。点差が開いてもプレーが軽くなるような様子は皆無で、チーム全体が地に足つけてさらなる高みへと歩を進めていることをうかがわせる。

次戦の相手は前回大会王者の南アフリカ(日本時間9月24日04時キックオフ@サンドニ)。開幕戦のフランス対ニュージーランドと並ぶ、プールマッチ最大の大一番だ。ここに勝利できれば、チームの自信はもう一段上のレベルに上がる。ウェブ・エリス・カップも、よりくっきりと視界に入ってくるだろう。

結果的にビッグスコアでの敗戦となったものの、トンガも随所に持ち味を発揮して見応えあるファイトを繰り広げた。これが今大会の初戦で、8月15日以来のゲームだったことを考えれば、まだまだここからチーム状態が上がっていくのは間違いない。次戦は9月25日日本時間00時45分キックオフの対スコットランド(@ニース)。いずれにとっても決勝トーナメント進出に向け絶対に落とせない一戦だけに、こちらも激闘必至だ。

投稿者

ラグビー好きの食いしん坊

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