2023年9月24日日曜日
ラグビーワールドカップ2023フランス大会予選プールC組
Lyon OL Stadium 収容客数58,883人(テレビ観戦)
40 - 6 Wales勝利
SOダン・ビガーが好調
順位争いが混とんとするプールCの大一番が、現地時間の9月24日午後9時(日本時間:25日朝4時)に行われる。大会前は決勝トーナメント進出濃厚とされた両チームだが、オーストラリアがフィジーに敗れて1勝1敗。もしここで、連勝のウェールズに敗れることがあれば、1位ウェールズ、2位フィジーになる可能性が高くなり、10回目のラグビーワールドカップ(RWC)出場で初めてプール戦敗退になるかもしれない。ウェールズはここで勝って決勝トーナメント進出を確かなものにしたい。互いに負けられない戦いなのだ。
ウェールズは、9月11日の初戦でフィジーに32-26と苦しみながらも勝利。17日のポルトガル戦ではメンバーを大幅に変更して苦戦したが、最後はNO8タウルペ・ファレタウが4トライ目をあげ、ボーナス点を獲得して勝った。そして今回はポルトガル戦で温存した12人のメンバーが先発する。ポルトガル戦から引き続き出場するのは、トライゲッターのWTBルイス・リース=ザミット、タウルぺ・ファレタウ、キャプテンのFLジャック・モーガンのみだ。モーガンは昨年2月に代表デビューしたばかりの23歳だが、攻守によく働く。
プレーメイカーのSOダン・ビガーは正確なキック、パスで味方を走らせるだけではなく、RWCにおけるプレースキックの成功率が87%という高率で、僅差勝負では抜群の存在感がある。オーストラリアのSOドナルドソンは専門職ではなく、ゲームリードで差が出るのかどうか興味深い。また、ファレタウと、オーストラリアのロブ・ヴァレティニのNO8対決も面白い。ともにチームきってのボールキャリアーである。タックル数も多く、攻守でインパクトある活躍を続けており、この試合でも勝敗のカギを握る選手だ。
Wallabiesは生き残れるか
オーストラリアのエディー・ジョーンズヘッドコーチは、15-22で敗れたフィジー戦から大きなメンバー変更を行わなかった。キャプテンのHOデイヴィッド・ポレクキほか、1番から5番のタイトファイブは同じメンバー。3番のジェームズ・スリッパーはラグビーワールドカップ(RWC)20試合目となり、レジェンドのSHジョージ・グレーガンと並んでオーストラリアのRWC最多出場記録となる。メンバーが変わるのはFW第三列とHB団だ。
6番にロバート・レオタが入り、身長199cm、体重122kgの大型FLトム・フーパーは7番へ移動。SHは25歳のテイト・マクダーモットが先発し、33歳のニック・ホワイトはリザーブに回る。そして、SOにはフィジー戦でFBだったベン・ドナルドソンが上がり、FBにはアンドリュー・ケラウェイが入り、カーター・ゴードンはベンチからのスタートだ。HB団の変更がどうゲームに影響を与えるのか興味深い。
両チームは過去45度対戦し、オーストラリアが31勝、ウェールズが13勝、引き分け1という記録が残る。直近は2022年11月26日、ウェールズのカーディフで対戦し、39-34でオーストラリアが勝っている。RWCでは7度対戦し、オーストラリアが5勝2敗でリード。しかし、どの試合も接戦で今回もスコアに大きな差は出ないだろう。
今大会に入ってからの両者の戦いを比較すると、顕著なのがタックル数、成功率の違いだ。ウェールズは、2試合で参加チーム中1位の365回のタックルを繰り出し、成功率も88.4%と3位の数字を出している。一方、オーストラリアは、参加チーム最下位の156タックルで、成功率も2番目に悪い77.6%だ。タックルが少ないのは、キックを使って陣地をうまく進めている面もあるのだが成功率が悪いのは気になるところ。激闘必至。このカードは見逃せない。
Walesがベスト8に一番乗り
1987年に始まったラグビーワールドカップ(RWC)の歴史のなかでも指折りのショッキングな試合内容だった。1991年、1999年大会で優勝したオーストラリアは常に優勝候補の一角であり、プール戦を勝ち抜くのは当然のチームだった。しかも、ヘッドコーチは、オーストラリア、日本、イングランドのヘッドコーチとしてRWC3大会で準優勝2回、南アフリカのテクニカルアドバイザーとしては2007年大会で優勝も果たしている名将エディー・ジョーンズである。衝撃の試合内容を振り返ってみよう。
混戦のプールC最大の注目対決、ウェールズ対オーストラリアは、9月24日、オリンピック・リヨン・スタジアム(リヨン)で午後9時に始まった。ここまで2勝し、勝てば決勝トーナメント進出が決まるウェールズはキックオフ直後からペースをつかんだ。開始3分、中盤のラインアウトから右オープンに展開すると、サインプレーからFLジャック・モーガンが抜け出し、サポートしたSHガレス・デーヴィスがトライをあげる。SOダン・ビガーのゴールも決まって、7-0。
オーストラリアも9分、大切な試合でSOに抜擢されたベン・ドナルドソンがPGを決める。この直後、ウェールズのプレーメイカーであるダン・ビガーが肩を負傷し、退場を余儀なくされる。さらにドナルドソンにPGを決められ、7-6。この窮地にチームを救ったのが交代出場のSOガレス・アンスコムだった。19分のPGは外したが、2分後にPKを得たときには、ゴールポストまで48mの距離を自ら「蹴る」と直訴。成功させて10-6とリードを広げる。
オーストラリアもボールを保持しながら攻めるが、ウェールズの「レッド・ウォール」(赤い壁)が前進を許さない。SHガレス・デーヴィスの素早い出足のタックルも光っていた。アンスコムがさらに2PGを加え、前半は16-6とウェールズのリードで折り返した。ウェールズは前半だけで103回ものタックルを決め、SHデーヴィスの正確なハイパントをWTBジョシュ・アダムズが走り込んでキャッチするなどシンプルに戦った。序盤はオーストラリアに圧力を受けたスクラムも修正し、途中からは逆にプレッシャーをかけはじめた。
後半、流れはさらにウェールズに傾く。後半3分、スクラムでオーストラリアの反則を誘うと、アンスコムがPGを決めて19-6。8分にはアンスコムが防御背後に蹴ったショートパントを追ってCTBニック・トンプキンズがインゴールに走り込んでトライ、アンスコムのゴールも決まって26-6と突き放す。以降はオーストラリアの規律が乱れて反則も増え、アンスコムが2PG、後半30分にはアンスコムがドロップゴールを決めて、35-6。後半はウェールズの攻撃時間が長くなり、一方的な展開だった。仕上げは終了間際の38分、ゴール前ラインアウトからモールを押し込み、23歳のキャプテン、ジャック・モーガンがダメ押しトライを決めた。
「ゲームをうまくコントロールできた。トライを与えなかったのも良かった」とは、ウェールズのウォーレン・ガットランドヘッドコーチ。鉄壁のディフェンスアはまさに「レッド・ウォール」。3連勝で勝ち点を14点と伸ばしたウェールズはプールCの2位以上を確定させ、決勝トーナメント一番乗り。プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたアンスコムは、「本当に嬉しいし、ほっとしました。ビガーはチームにとって大きな存在で、代わって出場した時は自分の役割を果たすことに集中しました」と話した。
結局、ウェールズは最後まで相手にトライも許すことなく、40-6の快勝で今大会決勝トーナメント一番乗りを果たした。一方、ボーナスポイントなしの敗戦を喫したオーストラリアは、1勝2敗で勝ち点6にとどまり、同じく勝ち点6のフィジーが下位2チームとの対戦を残していることから8強入りが厳しくなった。負傷で試合に出られなかったキャプテンのLOウィル・スケルトンは涙を浮かべた。エディー・ジョーンズヘッドコーチは、チームが為すすべなく負けていく様子を呆然と見つめていた。終了後は、ウェールズを祝福した上で、34点差という歴史的完敗に「オーストラリアのサポーターの皆さんに謝りたい。私たちのパフォーマンスは要求される水準に達していませんでした。このことは私が全面的に責任を負います」とコメントした。
ラグビーワールドカップの黎明期に牽引したチームはwallabiesだった。2007年くらいまではずっと世界最強クラスだった。決して北半球に遅れを取るチームではなかった。そういう意味では時代は変わったと感じる。率直に言えばショックだった。次回2027年は開催国となるオーストラリア。復活を期待したい。